4/4 |
目を閉じていると、王様は自分が王様になる前、 いちばんの家来だったころのことが、思い出されました。 前の王様は、金銀の布でかざられたこの大きないすにすわったまま、 言ったものです。 「手紙を書く。紙とペンを持ってまいれ!」 「のどが、かわいた。お茶のよういを!」 「新しい服をつくるぞ。腕のいい仕立て屋をすぐによんでまいれ!」 その命令は、まずいちばんの家来につたえられ、 それはまた別の家来につたえられます。 いちばんの家来は、いちばんの(王様のお気に入りの)家来でいるために、 王様の命令をいちはやく実行するようにはたらきもしました。 朝から晩まで王様の命令をききながら、いちばんの家来は思ったものです。 (ああ、自分が王様になって、あの大きないすにすわれたら、 どんなにすばらしいだろう! たった一日でいいから、王様のいすにすわって、 誰にも命令されずに、のびのびすごしたいものだ……) ところが、どうでしょう? 本当に新しい王様になって、はじめてこのいすにすわった その日から、一日中、だれかに命令ばかりしていたではありませんか。 王様の目から涙がこぼれました。 王様はかんむりをぬいで、王様のいすの上に置きました。 (本当の王様は、このいすの上にいる、そう考えることにしよう。 そして、私はまた、いちばんの家来、 いちばんのはたらき者の家来にもどるのだ……) 王様は、命令するのをやめ、家来たちといっしょにいろいろな 仕事をしました。自分で花に水をやり、新しい種をまきました。 国じゅうにパンを焼く香ばしいにおいがもどり、街のあちこちに、 お菓子をつくる甘いかおりがただよいます。 家々の窓に、色とりどりの花が咲き始めました。 城の庭のバラの枝は、いつのまにか王様の部屋の窓辺にとどき、 うす紅色の美しい花を咲かせました。 王様は花に顔を近づけて、そのかおりを胸いっぱいにすいこみました。 なんとなつかしいかおりでしょう……。 城の前で出会った、いつかの花売り娘のかおりです。 もちろん、もうくしゃみがでることはありませんでした。 おわり |