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 王様は、再びおふれを出しました。
「くしゃみをとめたものは、男ならいちばんの家来にとりたて、
女なら王様のおきさきにむかえる!」
 国じゅうから、我こそは、と思う者が集まりました。
でも、だれひとり王様のくしゃみを止められる者は、いませんでした。

 王様は、とうとう自分で城の外に出て、こっそりパンを焼いている家がないか、
どこかに花が咲いていないか、たしかめることにしました。

 街に出た王様は、暗くしずまりかえった街のようすに驚きました。
大人たちは、みなつまらなそうに下を向いて歩いています。
子供たちの笑い声も聞こえません。
 パン屋の扉は、かたく閉ざされ、花売りの若い娘たちの姿は、
どこにもありませんでした。

 王様は、とぼとぼと城へ帰りました。
 城の前まで来ると、どこからきたのか、ひとりの花売りの娘が
王様にうす紅色のバラの花をさしだしました。
 おもわず、王様はその花にみとれました。花の美しさに
沈んだ心がなごみました。

「王様、くしゃみの訳をお知りになりたいのでしょう?」
 王様は、びっくりして、娘を見ました。
なんとも美しい娘でした。澄んだ瞳とかれんな姿を見て王様はうっとりしました。
(この娘なら、本当にわたしのおきさきにむかえたいものだ……)
 娘がやさしくいいました。
「どうかお城にもどって、ご自分のお部屋で目を閉じてみてください。」
「なんだと?いったい、どういう……」
 王様は、もう一度聞き返そうとしましたが、もうそこに娘の姿はなく、
ただほんのりと、バラのかおりが残っているだけでした。
 王様は部屋にもどると、王様のいすに座って、そっと目を閉じました。
どこからか、かぐわしい草や花のかおりが、ただよってきました。
 それは、王様のいすの中いっぱいにつめこんである、
花びらや香草のかおりだったのです。